2026/05/19 07:42
◆先日から当ショップで「まとめられない個×個×個」というタイトルのブックフェアを開催しています。熊本のひよこ雑貨店という店の店主と、いまのところ福岡をねぐらにしつつあれこれ書いたり歌ったりしているタケダ2000GT氏と、そしていまこれを書いているよしのももこの3人による共同開催のささやか過ぎるフェアです
◆だいたいブックフェアというのは著名な書き手の本を何かのテーマに沿って並べたり、すでにたくさんのお客さんが来ている本屋さんがさらなる賑やかしのために開催したりするものかなーと思うのですが、「まとめられない個×個×個」はそのどちらとも少し違う気がする。たとえばこのフェアの概要を読んだへんなコンサルが
なんのために?
なにをどうしたいの?
誰になにを伝えたいの?
などと嫌な口調で詰めてきたとします。ひよこ・タケダ・よしの、この3人はおそらく現場では「なんですかね…」ぐらいしか言うことがなくて(よしのは耐え切れずにコンサルを罵倒してしまう可能性もじゃっかんありますが)、で、あとになってなんか書いたりするときにそのコンサルとのやり取りを書き出しの着火剤にしたりする。そういう3人による企てですから、そもそもこれを「共同開催のブックフェア」と呼んでいいのかどうかもだいぶ怪しい。開催のタイミングすらそれぞれのさじ加減に任されており、すでに見切り発車済みのヨベルから5月下旬スタートのひよこ雑貨店までバラバラです(というかちゃんと商品を揃えてから開催するひよこさんとこが一番ブックフェアらしいブックフェアになることでしょう。さすがは実店舗経営者!)
◆このフェアの発案者はわたしなのですが、特に強い思いとか、明確な狙いがあってのことではありません。おそらく。去年のいつごろだったか忘れましたが、タケダさんの雑文集『あのころ、それから』を物々交換で手に入れて読んだとき、一番最初の章を読んであれ? となった。そのあれ? から生まれた小さな思いつきによるものです。「起立、礼、が済んだらサボろう」というタイトルのその章には、保健室に通う小学校一年生が登場します。その一年生の行動が「小料理屋の暖簾をくぐるように」とか「もはやこの店、と決めたら決して不義理をしない飲みすけ感覚で通い出した」みたいな言い回しで描かれている。失礼を承知で正直に書くと、ここでほんの少しだけわたしの警戒センサーのようなものが反応しました。これ、ウケ狙いの大袈裟な文章だったらたぶん読めないけど、どうする?
◆しかしその反応をいったん脇においてそのまま読み進めることにしました。で、数行先にはこんなことが書いてあった
白いまっさらなシーツの敷かれた固めのベッド。薄い、我が家のものではない匂いのする毛布をかけてもらって横になっていると、カーテンの向こうで先生の書類にペンを走らす音、藁半紙を繰る音に混じって、窓越しに「参加するつもりはあったけどなんか誰か殴りそうだなと思って取りやめ」にした体育の授業の声が聞こえてくる。
◆あれ? これ知ってる、と思いました。誰か殴りそうだったわけではないけど知ってるぞこれ。手ざわり、匂い、音。そのとき、ばちん、と扉がつながる音がして、つながった先は土民生活流動体の手紙です。わたしが2019年ぐらいから4年近い年月をかけて編んだ『土民生活流動体書簡集』の第一集に収録した、いつかどこかの流動体の書いた手紙らしきもの、の、2通目。同じテーマについて書かれているとか、書いた人どうしの境遇が似通っているとかではなくて、ただ、ぜんぜん別のあっちとこっちが、なぜか行き来できるっていう不思議。それがたぶん種火のようにずっと残っていて、やがて小さな思いつきの火がともります
『あのころ、それから』を仕入れて『土民生活流動体書簡集』といっしょにうちのwebショップで売ってみたらどうなるかな?
ていうかいっしょに売るならなんかペーパーとかつくったらいいかも?/タケダさんにインタビューさせてもらおうか?/いやもっと双方向のものがいいな/でもお互いを褒め合うみたいなのもつまらないし/誰かもう一人、別の人の目が入ったらおもしろいかも?/でも誰?/ギャラ払って依頼して…みたいなのから遠いところでやりたいな/タケダさんどう思います?/ていうかすでに一人浮かんでるお名前あるんだけどとりあえず黙っとこ/え、ひよこ雑貨店の店主さんですか? まさにお名前浮かんでたのその方なんですけど!/とりあえずお手紙書いてみますね/えタケダさん今度熊本行く用があるんですか?/じゃあうっすらタケダさんからもお話していただいて/全員がおもしろそう! やってみますか! ってなったらやりましょう/なりましたね/やりますか/わたしこの日なら空いてます~お二人も空いてる日挙げてください/では3月17日午後5時にこちらのGoogleドキュメント集合で!
◆そこから2か月近くかけて、たくさんのテキスト、たくさんのアイディアがうまれました。誰からともなく手分けして、忙しいときは無理をせず、「遅くなってすみません」は言わない約束よおとっつぁん、ゴホゴホいつもすまないねえ、とかなんとか、3人それぞれの生活の合間に重ねられたさまざまなやり取りを経てのフェア開催。「まとめられない個×個×個」というのはわたしが2015年9月5日に東京・立川のギャラリーセプチマで主催した「ごちゃごちゃフェスティバル」という謎イベントのサブタイトルだったのですが、今回、フェアのタイトルどーします? と聞かれたときに記憶のフタがとつぜんパカッ! と開いてこのフレーズがぱっ、と蘇ってきたのでアイディア出し用のドキュメントに書いてみたところ即採用となりました。「個×個×個」のところは「コトコトコ」と読みます。ひよこさんもタケダさんもこの音を気に入ってくれたみたいです。11年近い時を経てのとつぜんの復活、とてもうれしく思っています
◆フェア対象作品をお買い上げくださった方にささやかなペーパーを差し上げています。冊子・本との新たな出会いの機会になればうれしいです
